
伝承
水浴中の天女の羽衣を漁師・きこり等が奪い、地上に留めて妻とするが、後に羽衣を取り戻した天女が昇天するという広域分布の異類婚姻譚。風土記逸文と能『羽衣』が代表。
羽衣伝説は、天界から地上の泉や海辺に降りた天女が水浴中に羽衣を人間に奪われ、地上に留まって妻となり、後に隠された羽衣を見つけて昇天するという異類婚姻譚で、日本各地に類型が分布する。二大系統がある。**丹後型**は『丹後国風土記』逸文(八世紀)に見える奈具社縁起で、丹波郡比治山の真奈井に天降った八人の天女のうち一人が老夫婦に羽衣を奪われ、子のない夫婦の娘となって万病を癒す酒を造り財を成すが、やがて老夫婦に追い出され、奈具村(現・京都府京丹後市弥栄町船木)に至って奈具神社の豊宇賀能売命となる筋。**近江型**は『近江国風土記』逸文に見える伊香小江の伝承で、伊香刀美が八人の天女のうち一人の羽衣を奪い妻として四子を儲けるが、後に羽衣を見つけた天女が昇天し、子らが伊香連の祖となる筋。**駿河型**は能『羽衣』(観世元雅作とされる、室町期)で広く知られ、三保松原で漁師・白龍が松にかかった羽衣を見つけ、天女に乞われて返すと天女は霓裳羽衣の舞を舞って昇天する。
物語は「天上の存在の地上降下」「衣装の喪失と地上滞留」「異類との婚姻と労役」「衣装の発見と昇天」という異類婚姻譚の典型構造を取る。羽衣は天と地を分かつ装置であり、奪取は天上の力の地上への引き留め、返還は秩序の回復を意味する。比較民俗学では国際話型 ATU 400(白鳥乙女)の日本変種として位置づけられる。能『羽衣』では奪取と労役の暗部が削ぎ落され、舞楽の優美のみが残される。
京都府京丹後市弥栄町の奈具神社(豊宇賀能売命を祀る、丹後型)、滋賀県長浜市木之本町の伊香具神社(近江型)、静岡市清水区の三保松原と御穂神社(駿河型)が主要伝承地。福島県南会津、福岡県朝倉郡の蜘蛛淵、富山県魚津市など、各地に類話が伝わる。
『丹後国風土記』逸文 比治山真奈井条(八世紀、『釈日本紀』所引)、『近江国風土記』逸文 伊香小江条(同前)、『風土記』採訪の各国伝、能『羽衣』(観世元雅、十五世紀)が主要典拠。
丹後国風土記 逸文 比治山真奈井条
一次文献撰者未詳
『釈日本紀』所引『丹後国風土記』逸文に比治山真奈井の天女と奈具神社縁起が記される(八世紀成立)。
https://dl.ndl.go.jp/羽衣伝説 - Wikipedia 日本語版
二次資料Wikipedia contributors
羽衣伝説の丹後型・近江型・駿河型の分布と能『羽衣』との関係に関する二次整理。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BE%BD%E8%A1%A3%E4%BC%9D%E8%AA%AC