
伝承
諏訪ミシャグジ伝承は、長野県茅野市を入口にたどる伝承。長野県茅野市を代表地点として、神格・氏族の系譜の文脈で語り継がれる物語を整理する
諏訪ミシャグジ伝承は、信濃国諏訪(しなのくにすわ、現在の長野県諏訪盆地)の在地神である「ミシャグジ」(御社宮司・御左口・御赤口など多様な表記)をめぐる伝承群で、記紀以前から続く土着の地神信仰の遺存を示す。ミシャグジは樹木・石・蛇などに依り憑く小神格で、土地の境界・山口(やまぐち)・水源を守るとされる。諏訪大社の神官家であった守矢家(もりやけ)の家伝『神長官守矢家文書』には、ミシャグジを「降ろし」「上げる」祭祀作法と、神長官(じんちょうかん)が司祭する諏訪上社の御頭祭(おんとうさい)でミシャグジが諸神事の中核に位置する旨が記される。一方、出雲系神話の流入後は、建御名方神(たけみなかたのかみ)が諏訪に降って洩矢神(もりやのかみ)を破ったとする伝承が成立し、ミシャグジは諏訪上社神事の隠れた基層神格として位置づけ直された。
伝承は二層に分かれる——(一)記紀以前の在地層(ミシャグジを依代に降ろす祭祀、守矢家を司祭家とする樹木・石・蛇信仰)、(二)記紀・出雲系の上層(建御名方神の降臨と洩矢神の敗北、上社祭神への組み込み)。両層は対立ではなく重層として共存し、現在も諏訪大社上社本宮(長野県諏訪市)の神事には守矢家・諏訪家両系統の祭祀作法が織り込まれる。中世以降は神道家・修験道の解釈によって「シャクジン」「赤口神」などの異名・異表記が広がった。
中心比定地は長野県諏訪市・茅野市にまたがる諏訪大社上社本宮(諏訪市中洲)・前宮(茅野市宮川)、および守矢史料館(茅野市宮川高部)。前宮境内には「ミシャグジ社」と呼ばれる小社が現存し、樹木と石を祭具とする祭祀形態を保存する。長野県・山梨県・愛知県・東海地方一帯にミシャグジ系の小祠が散在し、関東地方の「赤口神」「社宮司」「石神」と呼ばれる路傍の小祠群も同系統と位置づけられる。
『神長官守矢家文書』(中世以来、守矢家伝来の祭祀記録、長野県茅野市指定文化財)、『諏方大明神画詞』(諏訪円忠撰、延文元年・1356 年成立)、『諏訪信重解状』(鎌倉期)。今井野菊『神々の里・古き信濃を求めて』、大和岩雄『諏訪神社』、宮地直一・柳田國男・折口信夫・中沢新一らの諏訪信仰研究、茅野市守矢史料館の公的資料を主要文献とする。
古事記・日本書紀関連資料 諏訪ミシャグジ伝承
一次文献古事記・日本書紀関連資料 諏訪ミシャグジ伝承に基づく諏訪ミシャグジ伝承の代表的な典拠整理。
古事記・日本書紀
二次資料古事記・日本書紀などを参照した諏訪ミシャグジ伝承の地域的受容と異伝の補助確認。
名称や説話、図像、儀礼に重なる具体モチーフです。