
伝承
愛知県のヤロカ水伝承は愛知県を主な舞台として整理する伝承。ヤロカ水との関係を持ち、一覧や地図で出典、土地、怪異を結ぶ入口になる。
ヤロカ水(やろかみず)伝承は、愛知県・岐阜県の木曽川(きそがわ)流域に伝わる大洪水の予兆譚で、洪水の前夜、川の上流から「ヤロカヤロカ(遣ろうか、遣ろうか)」という不気味な声が響くと語られる。村人が恐れて返事をしないでいると声は止むが、誰かが「よこせ」と答えてしまうと、たちまち上流から大水が押し寄せ村を呑み込む、と伝えられる。声の正体は河童(かっぱ)あるいは水神(すいじん)の眷属とされ、川と人里の境界に立つ「呼び水の怪」として木曽川下流域の集落に語り継がれてきた。
物語は三段で組み立てられる——(一)夜更けの川面から響く問いかけ「ヤロカ」、(二)村人の応答/沈黙の選択、(三)応答による洪水の発生と村の被害。声に答えてはならないという禁忌の構造は、東北の山中で背後を歩く「送り犬」譚や中部の「呼ばわり山」と同型で、自然災害を擬人化した境界怪異として位置づく。
中心となる伝承圏は愛知県一宮市・稲沢市・愛西市など木曽川下流の右岸集落と、対岸の岐阜県羽島市・海津市。木曽三川(木曽川・長良川・揖斐川)の合流点周辺は近世まで水害常襲地で、ヤロカ水の声は実際の洪水記憶と重なって伝承された。
柳田國男『妖怪談義』『日本の伝説』、愛知県教育委員会編『愛知県史 民俗編』、岐阜県史 民俗編に類話の収録がある。近世の地誌『尾張名所図会』『張州雑志』にも木曽川流域の水怪譚が散見され、河童伝承の地方変種として整理される。
国際日本文化研究センター 怪異・妖怪伝承データベース
一次文献国際日本文化研究センター
愛知県のヤロカ水伝承に関わる怪異・伝承資料の参照入口。
https://www.nichibun.ac.jp/YoukaiDB3/日本妖怪大事典
二次資料村上健司 編著
村上健司編著『日本妖怪大事典』(角川書店、2005年)など、地域の怪異伝承を整理する二次資料。