
伝承
岩手県の寒戸の婆伝承は岩手県を主な舞台として整理する伝承。寒戸の婆との関係を持ち、一覧や地図で出典、土地、怪異を結ぶ入口になる。
寒戸の婆(さむとのばば)伝承は、岩手県遠野(とおの)地方に伝わる「神隠し」型の怪異譚で、柳田國男(やなぎたくにお)『遠野物語』第八話に記録される代表的な遠野譚である。寒戸(さむと、現・遠野市附馬牛町)の山中で梨の木の下に草履(ぞうり)を残して娘が忽然と姿を消し、三十年余の歳月を経たある日、親類縁者が集まる宴の最中に、年老いた姿の彼女が突然戻ってきた。「みなが懐かしくて帰った、また行く」とだけ言い残して、彼女は風のように再び山へ消えていった、と伝えられる。以後、強い風が吹く日には「寒戸の婆が来る」と語り継がれた。
物語は三段で構成される——(一)娘の山中での失踪と捜索の失敗、(二)三十年後の老婆姿での突然の帰還、(三)再びの離別と風の到来による帰還の予兆化。神隠しを「天狗にさらわれた」「山人に連れ去られた」と説明する遠野の山岳他界観を象徴する話で、柳田が『遠野物語』で「事実譚」として記録した点に意義がある。神隠し譚の代表例として日本の妖怪文化史に決定的な影響を与えた。
比定地は岩手県遠野市附馬牛町の寒戸(現在の上柳)一帯。遠野市街地から早池峰山(はやちねさん、岩手県の代表的霊山)に向かう道沿いに位置し、早池峰信仰圏の縁辺にある。遠野市内には遠野物語の舞台が点在し、寒戸の婆の梨の木伝承地も語り部により案内される。
柳田國男『遠野物語』(明治四十三年・1910 年刊)第八話。佐々木喜善(ささききぜん)口述・柳田國男筆録。岩手県教育委員会編『岩手県史 民俗編』、遠野市立博物館の遠野物語関連資料。柳田『山の人生』『妖怪談義』にも神隠し論として再論される。
国際日本文化研究センター 怪異・妖怪伝承データベース
一次文献国際日本文化研究センター
岩手県の寒戸の婆伝承に関わる怪異・伝承資料の参照入口。
https://www.nichibun.ac.jp/YoukaiDB3/日本妖怪大事典
二次資料村上健司 編著
村上健司編著『日本妖怪大事典』(角川書店、2005年)など、地域の怪異伝承を整理する二次資料。