
伝承
おしらさま伝承は、典拠と代表地点を確認した公開項目として整理する伝承。遠野物語に見える家の神と馬娘譚を、地域信仰の文脈からたどるための入口になる。
おしらさま伝承は、岩手県遠野地方を中心とする東北の家の神(屋内神)に関する民俗伝承で、馬と娘の婚姻譚を起源とする。あるところに娘と一匹の馬がおり、娘は馬に親しみを深めて夫婦になりたいと願う。これを知った父は怒り、馬を桑の木に吊るして皮を剥いで殺してしまう。娘が嘆いて馬の皮にすがると、皮は娘を包んで天へ昇り、二人は神となる。やがて娘の枕辺に蚕(かいこ)の姿で現れ、養蚕の起源を授ける。後にその家では桑の木で雌雄一対の人形を作り、衣を重ね着せて屋内に祀るようになった。これがオシラサマで、家の養蚕守護神・農耕神・予言神として東北各地で祀られる。
物語は三段で構成される——(一)禁忌の婚(人と動物の越境)、(二)父の介入と暴力的分離、(3)昇天と神格化、養蚕の起源の伝授。中国の『捜神記』巻十四に見える「馬皮女化蚕」型と類縁を持つ古層の説話だが、東北における祭祀実践——桑の木で削った男女一対の神体、毎年新しい衣を重ねて着せる「お衣替(おべせ)」、巫女(イタコ)による「オシラ遊ばせ」——と結びついて独自の生活宗教を形成した。家・蚕・娘という三層が東北の養蚕経済と結ばれて伝承の生命を保った。
中心伝承地は岩手県遠野市・宮古市・盛岡市を含む南部地方一帯、および青森県南部・宮城県北部に分布する。遠野市土淵町の伝承園(でんしょうえん)には、千体のオシラサマを祀る「オシラ堂」があり、信仰の現状を体感できる場として整備されている。岩手県内では国指定重要有形民俗文化財「遠野及び周辺地域のオシラサマ関係資料」として一括指定される(文化庁 国指定文化財等データベース)。
柳田國男『遠野物語』第 69 話(明治四十三年・1910 年)が中央への発信を行い、佐々木喜善『遠野物語拾遺』に続く採録が続いた。柳田國男『遠野物語・山の人生』、伊能嘉矩(いのうかのり)『岩手県郷土史研究』、岩手県教育委員会の民俗調査報告、文化庁 国指定文化財等データベース「遠野及び周辺地域のオシラサマ関係資料」項目を主要史料とする。
遠野物語
一次文献遠野物語に見えるおしらさま伝承の代表的な典拠。
遠野物語
一次文献おしらさま伝承の本文、章節、代表的な筋を確認する一次文献・伝承本文。
日本民俗学大系
二次資料日本民俗学大系など、おしらさま伝承の伝承差や地域的受容を整理する二次資料。
おしらさま伝承 伝承差整理資料
おしらさま伝承の地域差、受容、代表地点を整理するための二次資料。