
伝承
埼玉県のおいてけ堀伝承は埼玉県を主な舞台として整理する伝承。おいてけ堀との関係を持ち、一覧や地図で出典、土地、怪異を結ぶ入口になる。
おいてけ堀(おいてけぼり)伝承は、本所七不思議(ほんじょななふしぎ)の代表として知られる江戸東岸の怪異譚で、釣り人が大漁の魚を持ち帰ろうとすると堀の水中から「置いてけ、置いてけ」という声が聞こえ、振り切って家に帰り着くと魚籠が空になっている、と伝えられる。本伝承は本所(現・墨田区錦糸町・両国一帯)が中心だが、隅田川(すみだがわ)水系を経由して埼玉県側の旧荒川・芝川流域、川越(かわごえ)地方の堀にも類話が伝わる。河童(かっぱ)の悪戯、水神の声、堀に身を投げた女の怨念など、声の主の解釈は多様である。
物語は三段で構成される——(一)大漁を得た釣り人の帰路、(二)堀からの「置いてけ」の声、(三)家に着いてからの魚の消失。「水辺で得たものは水辺に返す」という民俗的境界の戒めを物語化したもので、東京赤坂の紀伊国坂のっぺらぼう(むじな)、本所の足洗邸(あしあらいやしき)と並ぶ江戸近郊七不思議の代表例。武蔵国(むさしのくに)一帯の堀・川の怪異圏に属する。
本伝承の中心は東京都墨田区錦糸町〜両国の本所地区だが、武蔵国(埼玉・東京・神奈川北部)の旧河川堀網に類話が伝わる。埼玉県側では川越市の旧城下、さいたま市の見沼たんぼ周辺、戸田・蕨の旧荒川沿岸の堀に類話が記録される。武蔵国一国の水辺怪異圏として、隅田川水系全域に拡がる。
馬場文耕(ばばぶんこう)『近世江都著聞集(きんせいえどちょもんじゅう)』、岡本綺堂『半七捕物帳』「本所の七不思議」、埼玉県教育委員会編『埼玉県史 民俗編』、東京都墨田区誌。近世江戸地誌『江戸名所図会』『絵本江戸土産』にも本所七不思議の言及がある。
国際日本文化研究センター 怪異・妖怪伝承データベース
一次文献国際日本文化研究センター
埼玉県のおいてけ堀伝承に関わる怪異・伝承資料の参照入口。
https://www.nichibun.ac.jp/YoukaiDB3/日本妖怪大事典
二次資料村上健司 編著
村上健司編著『日本妖怪大事典』(角川書店、2005年)など、地域の怪異伝承を整理する二次資料。