
伝承
島根県の影鰐伝承は島根県を主な舞台として整理する伝承。影鰐との関係を持ち、一覧や地図で出典、土地、怪異を結ぶ入口になる。
影鰐(かげわに)伝承は、島根県を含む山陰沿岸に伝わる海怪譚で、海面に映った人の影を鮫(出雲ではワニと呼ぶ)が水中から咬み切ると、その影の持ち主は一年以内に命を落とす、と伝えられる。出雲の海では鮫を「ワニ」と称し、ワニは古代以来の出雲神話においても重要な存在として現れる(『古事記』上巻 因幡白兎段の和邇(わに)など)。影鰐は出雲の海と人の生死を結ぶ境界怪異として、漁村の禁忌に深く組み込まれた。鳥山石燕『今昔画図続百鬼』にも「影鰐」として描かれ、水面下から伸びる巨大な顎が影に喰らいつく構図で記される。
物語は三段で構成される——(一)海面への影の投影、(二)水中の鰐による影への噛みつき、(三)影の主の一年以内の死。影と魂を同一視する古代の信仰(影を喪うことは魂を喪うこと)が出雲の海洋民俗に結晶した例で、『古事記』因幡白兎の和邇譚(大国主神に救われる兎の物語)と同根の出雲ワニ信仰圏に属する。海と陸の境界、生と死の境界を同一に語る出雲神話の論理を体現する。
中心となる伝承圏は島根県松江市・出雲市・浜田市の日本海沿岸、特に島根半島の漁村と隠岐(おき)諸島。出雲大社(島根県出雲市)の縁起、出雲国風土記の海岸描写に連なる海洋民俗圏で語られた。鳥取県の白兎(はくと)海岸(因幡白兎の比定地)とも文脈を共有する。
鳥山石燕『今昔画図続百鬼』(安永八年・1779 年)所収「影鰐」。『古事記』上巻 因幡白兎段(和邇の段)、『出雲国風土記』(天平五年・733 年成立)。島根県教育委員会編『島根県史 民俗編』、出雲市史。
国際日本文化研究センター 怪異・妖怪伝承データベース
一次文献国際日本文化研究センター
島根県の影鰐伝承に関わる怪異・伝承資料の参照入口。
https://www.nichibun.ac.jp/YoukaiDB3/日本妖怪大事典
二次資料村上健司 編著
村上健司編著『日本妖怪大事典』(角川書店、2005年)など、地域の怪異伝承を整理する二次資料。