
伝承
栃木県の静か餅伝承は栃木県を主な舞台として整理する伝承。静か餅との関係を持ち、一覧や地図で出典、土地、怪異を結ぶ入口になる。
静か餅(しずかもち)伝承は、栃木県を含む北関東一帯に伝わる夜の音の怪異譚で、深夜の静まり返った村に、どこからともなく「ぺったん、ぺったん」と餅をつく音が遠くから次第に近づき、家の前まで来ると止まり、再び遠ざかっていく、と伝えられる。音が大きいほど吉、近いほど凶、家の前で止まれば家人に災いがある、という吉凶判断が地方ごとに異なって伝承された。実体は見えず姿もなく、音のみが移動する純粋な「音の怪異」で、福島・群馬・栃木の旧街道沿い農村に類話が広く分布する。
物語は三段で構成される——(一)深夜の餅つき音の遠方からの発生、(二)家への近接と停止/通過、(三)翌日の家人の吉凶の判別。「正月の餅つき」という生活行為が脱現実化して怪異となる構造で、日常音への過敏な民俗的感受性を体現する。福島の福島県史民俗編にも類話が収録される北関東〜南東北の音響怪異圏に属し、京の片輪車(かたわぐるま)、江戸の足洗邸(あしあらいやしき)と同型の都市音怪異と対をなす。
中心となる伝承圏は栃木県宇都宮市・佐野市・那須郡などの旧街道沿いの農村と山間集落。日光街道・例幣使街道沿いの宿場間で多く語られ、近接県の福島県南会津、群馬県東部、茨城県北部とも伝承圏を共有する。日光東照宮(にっこうとうしょうぐう)の信仰圏縁辺で、北関東の郷土怪異文化を成す。
柳田國男『妖怪談義』『日本の伝説』、栃木県教育委員会編『栃木県史 民俗編』、宇都宮市史。近世下野(しもつけ)の地誌『下野国誌』『日光山志』にも夜の音怪異への類縁的言及がある。
国際日本文化研究センター 怪異・妖怪伝承データベース
一次文献国際日本文化研究センター
栃木県の静か餅伝承に関わる怪異・伝承資料の参照入口。
https://www.nichibun.ac.jp/YoukaiDB3/日本妖怪大事典
二次資料村上健司 編著
村上健司編著『日本妖怪大事典』(角川書店、2005年)など、地域の怪異伝承を整理する二次資料。