
伝承
東京都の野衾伝承は東京都を主な舞台として整理する伝承。野衾との関係を持ち、一覧や地図で出典、土地、怪異を結ぶ入口になる。
野衾(のぶすま)伝承は、東京都を含む関東一帯の山林に伝わる飛行性の怪異譚で、夜の山道に天井から覆い被さるように降りてきて、行灯の灯火を消し、旅人の顔を吹いて視界を奪う、と伝えられる。実体はモモンガ(あるいはムササビ)の老獣が妖怪化したもの、あるいは衾(ふすま、座布団)状の毛皮を持つ夜行性の獣の擬人化と説明される。鳥山石燕『画図百鬼夜行』に「野衾」として描かれ、毛むくじゃらの四足獣が空中を滑空する構図で記される。江戸近郊の武蔵野(むさしの)の雑木林、奥多摩(おくたま)の山中が代表的伝承地とされる。
物語は三段で組み立てられる——(一)夜の山道での頭上からの滑空、(二)灯火の消失と顔への吹付け、(三)夜明けによる消失。「上から落ちてくる」型怪異の典型で、京の天井下り(てんじょうくだり)、関東の天井嘗(てんじょうなめ)と並ぶ「天井系」妖怪群に属する。江戸の小泉八雲『怪談』の赤坂のっぺらぼう、本所七不思議のおいてけ堀と並ぶ東京の郷土妖怪の代表例。
中心となる伝承圏は東京都奥多摩町・檜原(ひのはら)村・八王子市の旧街道沿いの山道、武蔵野市から三鷹市にかけての旧武蔵野雑木林。江戸期は江戸郊外の杣道(そまみち、山仕事の道)として恐れられ、近代以後も奥多摩の山岳怪異として語り継がれた。武蔵野一帯の境界怪異圏に属する。
鳥山石燕『画図百鬼夜行』(安永五年・1776 年)所収「野衾」。東京都教育委員会編『東京都の民俗』、奥多摩町誌、武蔵野市史。柳田國男『妖怪談義』、近世武蔵の地誌『武蔵野話』『江戸名所図会』にも野衾への類縁的言及がある。
国際日本文化研究センター 怪異・妖怪伝承データベース
一次文献国際日本文化研究センター
東京都の野衾伝承に関わる怪異・伝承資料の参照入口。
https://www.nichibun.ac.jp/YoukaiDB3/日本妖怪大事典
二次資料村上健司 編著
村上健司編著『日本妖怪大事典』(角川書店、2005年)など、地域の怪異伝承を整理する二次資料。