
伝承
山梨県の天づるし伝承は山梨県を主な舞台として整理する伝承。天づるしとの関係を持ち、一覧や地図で出典、土地、怪異を結ぶ入口になる。
天づるし(てんづるし)伝承は、山梨県甲斐(かい)国の山中に伝わる吊り下げ型の怪異譚で、夜の山道や峠の樹下を歩いていると、突如として頭上から長い縄や舌のようなものが垂れ下がってきて、人を吊り上げて樹上に引き上げ、姿を消す、と伝えられる。捕らえられた者が翌日に山中の高い枝に逆さに吊られた状態で発見されることもあり、樹上から人を狙う「天井系」怪異の地方変種として位置づく。鳥山石燕『今昔画図続百鬼』に類する江戸期妖怪画集にも近似の図像が見える。甲斐山岳信仰圏の修験道、富士山(ふじさん)信仰圏の縁辺で語られた。
物語は三段で組み立てられる——(一)夜の山道での頭上からの異物の垂下、(二)拘束と樹上への吊り上げ、(三)翌日の遺体発見または救出。「上から襲う」型怪異の典型で、東京都の野衾(のぶすま)、京の天井下り(てんじょうくだり)、関東の天井嘗(てんじょうなめ)と並ぶ「天井・樹上系」妖怪群に属する。中部山岳地帯の修験道修行地の縁辺で発達した山岳怪異圏の一翼を成す。
中心となる伝承圏は山梨県南都留(みなみつる)郡富士河口湖町・忍野(おしの)村など富士北麓、北杜(ほくと)市・甲府市など南アルプス・八ヶ岳山麓の山間集落。富士山信仰圏、御嶽(みたけ)信仰圏と接続し、富士講・御嶽講といった山岳信仰結社の修行道筋に類話が分布する。長野県の御嶽信仰圏との連続性が指摘される中部山岳怪異文化圏に位置する。
柳田國男『山の人生』『妖怪談義』、山梨県教育委員会編『山梨県史 民俗編』、甲府市史、富士河口湖町誌。近世甲斐の地誌『甲斐国志』『裏見寒話(うらみかんわ)』、富士御師(おし)関連の修験道史料にも天井系怪異への類縁的言及がある。
国際日本文化研究センター 怪異・妖怪伝承データベース
一次文献国際日本文化研究センター
山梨県の天づるし伝承に関わる怪異・伝承資料の参照入口。
https://www.nichibun.ac.jp/YoukaiDB3/日本妖怪大事典
二次資料村上健司 編著
村上健司編著『日本妖怪大事典』(角川書店、2005年)など、地域の怪異伝承を整理する二次資料。