
伝承
岡山ぬらりひょん伝承は、岡山県岡山市北区を入口にたどる伝承。岡山県岡山市北区を代表地点として、怪異・変化の文脈で語り継がれる物語を整理する
岡山ぬらりひょん伝承(おかやまぬらりひょんでんしょう)は、瀬戸内海沿岸の岡山・備中地方を中心に伝わる、奇怪な老翁姿の妖怪「ぬらりひょん」をめぐる伝承群である。伝承の中心モチーフは、夕暮れ時、家人の慌ただしい夕餉支度の最中に、見知らぬ立派な身なりの老翁がふらりと家に上がり込み、当然のように座敷に座って煙草をくゆらせ、湯を飲み、家の主のような顔をしている、というものである。家人は怪訝に思いつつも追い返すことができず、気がつくと姿が消えている。瀬戸内沿岸では、海上から「ぬらり」と現れる海坊主の系譜の妖怪を併せて「ぬらりひょん」と呼ぶ伝承も伝わり、岡山の備中・備前地方で双方の系統が混淆して継承された。
伝承は三段で構成される——(一)夕餉時の混雑(家内の境界が一時的に緩む時間帯)、(二)見知らぬ客の侵入と主の如き振舞、(三)追い返せない当惑と気付かぬうちの消失。境界・侵入・無害という三要素の組み合わせが特徴で、害をなさないが追い返すこともできない「曖昧な侵入者」として描かれる点が、他の怪異——鬼や河童など明確に害をなす存在——との分岐となる。瀬戸内沿岸の海坊主系の「ぬらりひょん」と内陸の老翁系の「ぬらりひょん」は別系統だが、近世絵巻でしばしば混同された。
中心伝承地は岡山県岡山市・倉敷市・備前市など瀬戸内海沿岸一帯。岡山県内には特定の家屋・寺社に比定された伝承地はないが、各地の郷土史料館・民俗誌に複数の異伝が記録される。瀬戸内海の島嶼部(小豆島・直島・牛窓周辺)にも海上ぬらりひょん伝承が散在し、漁民の生活と結びついた怪異観として継承された。岡山県立博物館・倉敷市立歴史民俗資料館に関連資料が展示される。
江戸期の絵巻『百怪図巻』(佐脇嵩之、寛保二年・1742 年成立)、鳥山石燕(とりやませきえん)『画図百鬼夜行』(安永五年・1776 年刊)、『百器徒然袋(ひゃっきつれづれぶくろ)』にぬらりひょんの絵姿が描かれる。地域伝承の整理としては、岡山県教育委員会の民俗調査報告、京極夏彦・村上健司『日本妖怪大事典』、湯本豪一『日本幻獣図説』を参照する。瀬戸内海沿岸の海坊主系伝承は、岡山県立博物館・愛媛県立歴史民俗博物館に資料が所蔵される。
怪談・怪異伝承資料 岡山ぬらりひょん伝承
一次文献怪談・怪異伝承資料 岡山ぬらりひょん伝承に基づく岡山ぬらりひょん伝承の代表的な典拠整理。
日本怪異妖怪事典
二次資料日本怪異妖怪事典などを参照した岡山ぬらりひょん伝承の地域的受容と異伝の補助確認。
名称や説話、図像、儀礼に重なる具体モチーフです。